オオタカ
いつものように大手門へ向かう。堀の石垣に白い軽快な自転車と、一人の女性が座って本を読んでいた。おしゃれなサングラスが似合う楚々とした女性だった。
通り過ぎようとした時、本から目を上げた彼女と偶然顔が合った。「おはよう!」と、朝の空気が自然にあいさつをさせた。
肩から下げたカメラを見て、何を撮るのかと聞く。しばらく鳥の話しなど雑談を交わした。別れ際に彼女は小さなメモ用紙を取り出した。
彼女がボールペンを走らせている間に、横に伏せた読みかけの本の表紙を見ると「上手な話し方」とある。「じゃべる仕事をしているのか」と聞いたが、フッと笑顔を見せてメモを差し出した。私は歩き出した。小さなメモを手帳の最後の頁に挟みながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大手門から西の丸庭園の未申やぐら跡を見る。この時期はオオタカがとまっていることがある。今朝はどうだろうか。
大阪城公園で見られるオオタカは、ほとんど幼鳥だが三年前から成鳥が飛来している。手持ちのレンズでは小さくしか写らないが、白っぽい胸に眼の後方の黒帯、鋭い目つきはオオタカそのものだ。
大空を悠然と飛ぶ。林間を高速で飛びながら左右に木々をかわして獲物を追い詰める。好まれるタカは、ハヤブサだったり、イヌワシだったりするが、私はオオタカが一番好きだ。特に大阪城公園で出合う、こいつが好きだ。
門をくぐると、いつもの枝に白いものがとまっている。オオタカだ。急いで一番近い距離から見られる大手前配水場に走る。これで四年連続の飛来だ。
この場所でしばらくオオタカと対峙。早朝のこの時間がいい。やがて枝から飛び出すと、反転して西の丸庭園の中に飛ぶ。
私が少し期待しているように、西外堀を超えて私の方には飛んでこない。でも私は満足している。合えただけで満足している。お前の雄姿を目にしただけで、頭の中を想いが駆け巡る。鳥との出合いは私の人生そのもの。
件の女性は、翌日も同じ場所で本を読んでいたが、その後は見かけることはなくなった。そういえば「私病気なんです」と言っていたが。少し気になる。