あのトラツグミたちは。越冬した3羽。photo 今別府美行さん
年を重ねるにつけ涙腺がゆるむというのは本当なのか。早朝に出かける準備をしていると、テレビから若かったころにヒットした懐かしい曲が流れてきた。
思わず手を止めて聞き入ってしまう。イルカの「海岸通り」は大好きな歌のひとつで、なぜか熱くなってジンとしてくる。
港で別れた彼女がいたわけではない。あの頃の歌には弱いのだ。
大阪城公園で昨年末から数か月を過ごした3羽のトラツグミたちを思い出す。
場所が市民の森だった事や、一昨年にトラツグミの当たり年があって既に撮影済みだったのだろう、カメラマン連中に連日取り囲まれることもなく過ごしていたのがよかった。
3羽がそれぞれ数十m程度の小さな縄張りの中で過ごしていた。
通りかかるたびに、今日もいるかなと、わずかな不安を持って落ち葉の上に目を走らせる毎日だった。
うつむき気味の姿勢で数歩走って立ち止まり、頭を低くしたままじっと地表を見つめる。そんな姿が目に入るとほっとした。いつかは山へ帰ってしまうことは分かっている。
3月の終わりから4月の初めには鳴く姿を近い距離で何度か目にすることもあった。枝の上でくちばしを少し開いて「フィー」とよく通る大きな声で鳴いた。
昼間だからだろうか、姿が見えているからだろうか。今まで聞いた声よりも朗らかに聞こえた。
やがて、そのうちの2羽が一緒に過ごすようになった。きっとつがいになったのだろう。アオキの茂みの中を並んで歩いていた。
探しても見当たらない、待っても出てこない。別れの時は突然やって来た。
・・・♪♪貴方が船を選んだのは、私への思いやりだったのでしょうか、別れのテープは、切れるものだと、なぜ気づかなかったのでしょうか・・・・♪♪。
頭の中に浮かんできた。市民の森で一人目頭が熱くなってきた。
「海岸通り」の頃は想像さえしなかった60歳が見えてきた。だからだろうか。一期一会、あのトラツグミたちがいとおしい。
68号掲載(2005年5月)