早朝の内堀。浮寝のヒドリガモ。
いつものように青屋門から北外堀沿いに西へ進む。飛騨の森と水面の両方を見ながら京橋口から内堀に着くと泣き声らしき女性の声。
見上げると対岸の隠し曲輪の石垣に人影が見える。場所柄、大阪城公園では二人連れをよく目にする。抱き合って陶酔しているカップルもよく見かけるが、邪魔にならないよう通り過ぎるだけ。
しかし今日は尋常でない声が気になって双眼鏡を手にする。20代後半くらいの男女だ。向かい合っている。女性は顔を覆いもしないで泣いている。男の声は聞こえない。まだ7時にもなっていない早朝だ。昨夜は二人で過ごしたのだろう。
堀の中に目をやると浮寝鳥。数十羽のヒドリガモが見える。
浮寝鳥とは浮かんで寝る水鳥を表すが、不安な思いで寝ることや、かりそめの添い寝などの意味もある。二人の想いはいつから違ったのだろうか。どのように。
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ヒドリガモが各堀で見られる。もともと内堀しか見られなかったカモだ。2001年のウキクサ大繁茂から南外堀に多くなった。12月18日には264羽を数えた。
翌年も南外堀にヒドリガモが来るようになった。カモたちは思いつきで飛来するのでなく餌の記憶が残っている。
しかし、ウキクサが撤去されていたため定着せず各堀に分散。その後は他の堀でも見かけるようになった。
水際の石垣に上がって休んでいたり、「ピュィー」とカモらしくない声で鳴いたりしている。林の中の鳥が少ない日でも、水面に休むカモがいると落ち着く。
眺めていると寄ってくるカモもいる。メモ帳が餌に見えたのだろうか。いつも餌をもらっているのだろう。早く投げてくれと言わんばかりの目つきで見上げる。申し訳ない気持ちになって後ずさり。
どうしても忘れられない思いがある。今となっては墓場まで持って行く。少し離れたところにハシビロガモ。雌雄2羽のオカヨシガモも見える。シックで上品な羽柄だ。前後の脈絡なく頭に浮かぶ。
見上げると二人の影は見えない。明日はパンの耳を持ってこよう。
(2008年12月 元山裕康)