温暖化の影響で。
1995年、高石市でセアカゴケグモという、耳慣れない蜘蛛が発見された事が話題となった。
毒蜘蛛であったことと、国内に生息しない種であった為に騒がれたものの、日本の気候では、冬の低温に耐えられないと高を括っていたようだ。(この蜘蛛は、オーストラリアに生息し、死亡例もある。現地では、治療用の血清を確保している。)
その後、近畿各県からの発見が続き、2005年には、群馬県でも報告が出た。長居公園からは、卵嚢まで見つかっている。
自然死すると見られていたものが、冬の寒さを凌いで繁殖を続けている。
大阪城公園では、黒いアゲハチョウが数種類見られるが、ナガサキアゲハが最も目につく。
シッポ(後翅の尾状突起)が無いので、他との区別が容易につけられ、大阪市内でも普通に見られるのは、幼虫が栽培種のミカン類を好むからだろう。
東南アジアに広く分布し、日本がその北限になっているこの蝶の国内分布が、近年注目されている。
1960年頃の図鑑には、九州では普通・四国南半に多い(中略)大阪・和歌山で得られているが、大阪の記録は迷蝶…とある。
ところが、1970年代に岡山県、1980年代初めに大阪府、1990年代半ばに京都府、1990年代後半に静岡・神奈川県へと分布を拡げ、2001年には日比谷公園で♀が採集された。
変温動物にとって、北への分布拡大は、冬を乗り切られるか否かが、生死を決定する。
この蝶は蛹で越冬するが、寒さがある限度を超えると低温死することが知られている。
研究報告では、箕面市周辺の、冬季最低気温と、冬日の日数をみると、1950年代には最低気温の平均は-5.4℃、冬日は54日だったものが、1990年代にはそれぞれ-3.3℃と26日になっており、気候条件の変化が分布拡大の要因になったと考えられている。
ある資料によると、大阪市の冬の寒さは、1950年代の鹿児島市に匹敵するまでになってきており、京都市の年平均気温は、20世紀の100年間で約2℃上昇し、平均最低気温は、4℃上昇したといわれている。
分布の北限を拡げているのは、この蝶に限らず、10種以上にその変化が表われている。
イシガケチョウ(タテハチョウ科)、も50年前は紀伊半島南部までが生息域で、大阪市内でおいそれと見られるものでは無かった。1955年に肥後橋で採集された事が、話題になる程であった。今では、生駒山系でも北摂山地でも普通に見られる様になっている。
大阪城公園では、発生こそ無いものの、周辺の山から漂行して来ることが十分期待できる。
蝶に限らず、多くの生物が環境破壊によって、生息域を狭めている中で、温暖化やヒートアイランド現象を逆手にとって分布を拡げて行く様に、逞しさを感ずる反面、言い様の無い恐さを覚えてしまう。いずれ、この変化は鳥たちにも…。その飛来や渡去に、一喜一憂しているだけでは済まない時が来るかも知れない。(参考文献 休眠の昆虫学 東海大学出版会)
78号掲載(2007年9月)