小さい宝石 みーつけた。
予想は適中した。いるとしたらここだろうと履んでいた。
食樹のアラカシがまとまって植栽されて、少なからず照葉樹林の様相を呈している。野外音楽堂西側を歩いていると、素早く飛ぶ褐色が、進路を遮ってツツジの葉にとまった。
踏み出しそうになった足を、思い留めた。再び飛び立つと見失い兼ねない。双眼鏡を覗くと、黒い縁取りの中に青紫色が反射している。ムラサキシジミだった。
初めて見たのは、蝶に興味を持って間も無い中学生の時だった。初詣での帰り道、生垣にとまったり、飛んだりを繰り返しているのを見付けて、夢中になって追いかけた。オオルリの様な濃い青色が、陽光を浴びると際立ち、その輝きは私を蝶の世界へと深く誘なってくれた。
日本産シジミチョウ80余種の中で、成虫越冬するものは、ムラサキシジミを含めて数える程しかいない。晴れた暖かい日には、啓蟄を待たずして眠りから覚めて、飛び始めたりする。
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ところで、生物には、その生態に驚かされることがある。
クロシジミという蝶の幼虫は、当初アブラムシの分泌液を舐めているが、ある程度成長すると、蟻に拉致されて巣に運ばれる。その後は、蟻から給餌されて育つのだ。
また、ゴマシジミの幼虫は、蟻の巣へ運ばれた後に、蟻の卵や幼虫を食べて育つ。蟻の幼虫は、背にある蜜線から分泌する甘露を蟻に与えることで、共生関係を築いている。
託卵相手の小鳥達がいなければ、生きて行けない杜鵑類と同じ様に、この蝶には蟻が不可欠な相手になっている。(残念ながら、大阪城公園では見られない)
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一方、ムラサキシジミにも蟻との繋がりが見られる。幼虫は、アラカシの葉を食べて育つが、他のシジミチョウ同様に蜜線を持ち、そこからの分泌液で蟻を集める。
蟻は、液をもらう見返りに、用心棒として働くのである。実際に幼虫を捕らえに来たフタモンアシナガバチに対して、集まった、クロオオアリが、お尻から蟻酸を一斉に吹きつけて追い払う場面が観察されている。
こちらは、鳥でいうと何になるのだろうか。人家の軒先で営巣することで、人間を用心棒にする術を覚えたツバメに当たるのか。私達が、ツバメに対して温かい気持ちを抱いている様に、きっと蝶と蟻の間にも良い関係が生じているのだろう。
ムラサキシジミは、本来森林性の蝶だが、よく繁った公園や、神社の森でも見られる。
当公園なら、やはり野外音楽堂西側あたりがお勧めだ。運がよければ、アラカシの葉上にとまったり、夏には湿った地面に降りて水を吸ったりする姿を目にすることが出来るだろう。
翅の輝きは“こんな綺麗な蝶がいたんだ”と感動される事、請け合いだ。皆さんも是非、この小さな宝石を探してみて。
74号掲載(2006年7月)