オオバンの朝。
堀をのぞいていると、高齢の男がやってきて同じようにのぞき込む。
「今年は変なカモがいるなぁ」
つぶやくように言った。私に聞こえるように、私の反応を期待しているようにも聞こえる。
「あの黒いのはオオバン。カモじゃないんです」
「カモと違うのか」
男は独り言のように言って去っていった。
ある朝、東外堀のオオバンが見当たらない。どうしたのだろうか。いつもならざっと見渡して20羽くらい目に入るのに。
端から順に双眼鏡を動かして探す。すると青屋門近くに群れているのを見つける。
「おーっ。居た。よかった」
なぜ集まっているのだろう。こんなに多くが群れているのを見ていると現実感がない。不思議。1羽を一生懸命探した日もあったのに。
ほっとした気持ちとうれしさ。最近は毎日観察できるので喜びが薄れていた。
こうして一瞬期待が裏切られ、そして思いがかなうと幸福感。
順に数える。何度も数え直す。真っ黒で小さくて額と嘴が白い鳥。
散歩中らしき女性が声をかけてきた。
「今年はバンがいないですね。いつもは何羽か見るのに?」
「バンはそんなには居ないですよ。オオバンなら多いけど」
女性は少し怪訝な顔で黙ってしまう。
東外堀のカウントが終わった。次は南外堀だ。ゆっくりと歩き始める。今朝も冷え込んで指先が冷たい。