ハートウォッチング 〜心は濁さず〜
拝啓 オジロビタキ様
啓蟄も過ぎ蝶が姿を見せ始め、ツバメがやって来る季節となりました。昨年12月あなたが飛来して以来出会いを楽しみにしてまいりましたが、間もなく北の大地へ旅立つのですね。この冬あなたと出会い様々な事を考えさせられました、そんな想いを認めたいと思います。
今春、ひょんな事から一眼型デジカメを持ち歩く事になりました。「豚 に真珠」にならないようマニュアルに目を通してみましたが、私にはさっぱり理解出来ませぬ、これではマニュアルを理解する為のマニュアルが必要な程。超アナログ人間の私でも扱えるのだろうか、大きな疑問です。
近年カメラの進歩は目覚しく誰にでも簡単に綺麗な写真が撮れ、フィルム代も不要、便利になった物です。こぞってあなた方野鳥にレンズを向けるのも頷けます。しかしその中には心ないカメラマンが居るのは残念でなりません。目に余る餌付け行為、舞台作りに近くの木をへし折り、あなた方を探す為ツツジの茂みを叩いて歩く行為も目にしました。これでは観察どころではなくあなた方を脅かすばかり、憤りと嘆かわしさで胸が締め付けられる思いです、便利が故に招いた悲劇ですね。
今後更にコンパクト、低価格化が進みカメラ人口が増すのは間違いないでしょう。そうなれば・・・と懸念を抱くのは私だけではく、永きにわたり野鳥の観察や撮影をされてこられた方、良識あるバーダーの方々も同じ思いかと。
簡単便利がもてはやされる世の中、進歩し続ける道具に私たちは振り回されているように思えてなりません。快適な暮らしを手に入れる為私たちは心を手放して来たのかも知れません。あなた方野鳥やこの星に生きる様々な生き物の住処を奪い続けて手に入れた「快適」、そこに本当の「快適」があるのでしょうか、これ以上まだ快適を求めなければいけないのでしょうか。
そして住処を奪われたあなた方はどんな想いで私たち人間を見つめているのでしょうか。
野鳥が居なければ何の意味も持たないバードウォッチング、あなた方を脅かす愚行だけはやめなければなりませんね。
「温故知新」故きを温ねて新しきを知る。
元々自然保護を目的とし始まったバードウォッチング、便利な道具に惑わされる事なく、欲に囚われず、心は濁さずあなた方の『ハートウォッチング』をしなければいけない時が訪れているのでは・・・。
この冬、汚れなきあなたと出会い、そんな事を考えさせられました。
追伸
コンパクトデジカメで撮影した写真を同封いたします。
長旅の無事、心よりお祈りいたしております。お気をつけて。
敬具
早春のある日、西の丸庭園迎賓館裏にて・・・